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日本中でブームとなった大ヒット映画『かもめ食堂』、日本映画初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞を受賞した『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督がオリジナル脚本で贈る『川っぺりムコリッタ』は、新しい「つながり」の物語。脚本に惚れ込んだ松山ケンイチを主演に、共演にムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆という絶妙な演技者たちが集結し、ありそうでなかった化学反応に期待が膨らむアンサンブルが実現した。さらに、江口のりこ、柄本佑、田中美佐子、緒形直人、黒田大輔、薬師丸ひろ子(声の出演)、笹野高史ら実力派が脇を固める。音楽を『凪のお暇』などのパスカルズが手掛け、独特なメロディが不思議な時間へと誘う。

本作は、人と人のつながりが希薄な社会で、人はどうやって幸せを感じることができるのかという、根本に立ち返って実感することができる温かい物語だ。生き方や働き方が見直される今、モノや境遇、場所にとらわれない形での生きることの楽しさが、荻上が得意とする食や美術、会話を通して表現され、観る者たちに幸せの意味を問う。荻上ワールドおなじみの「おいしい食」と共にある、「ささやかなシアワセ」の瞬間をユーモアいっぱいに描く、誰かとご飯を食べたくなるハッピームービーとなった。

ストーリーは、孤独な山田が北陸の塩辛工場で働き口を見つけ、「ハイツムコリッタ」という古い安アパートに引っ越してくるシーンから始まる。家族も生き甲斐もなく「ひっそりと暮らしたい」と無一文のような状態の山田。ある日、隣の部屋の住人・島田が風呂を貸してほしいと上がり込んできた日から、山田の静かな日々は一変する。できるだけ人と関わらず生きたいと思っていた山田だったが、夫を亡くした大家の南、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口といった住人たちと関わりを持ってしまい…。図々しくて、落ちこぼれで、人間らしいアパートの住人たちに囲まれ、山田は少しずつ「ささやかなシアワセ」に気づいていく。

ひとりぼっちだった世界で、生と死の狭間を明るく生きる住人たちと出会い、友達でも家族でもない人たちと接するうちに、孤独だった人間が、孤独ではなくなっていく様相を、松山ケンイチが静かな演技で演じきり、見事に映画の清々しさへと昇華させた。撮影は、2020年9月上旬より10月上旬にかけ富山にて行われた。

火葬という儀式は、死者の骨を見ることで、こちら側の人間に、諦めと踏ん切りをつけさせるためのものだと思う。
死者の骨は、その肉体はもう決定的に存在せず、あの人はもうこの世にいない、という残酷な現実を目の前に突きつける。
それはグロテスクなものだけど、私たちは、それを慈しむ。

災害の多いこの国は、10年前の地震と津波をはじめ、台風や洪水、土砂ぐずれなど、毎年たくさんの人々が亡くなる。
ある日突然、大切な人の死を突きつけられ、行き場のない怒りに身を震わせる人がいる。
そして、私たちは、いつ死んでもおかしくないギリギリのところで生きている。
あちら側とこちら側の境目は、実はそれほどはっきりと決められた線ではなくて、もっと曖昧な時間で、
おそらく、空の色が青から紫に変わってゆくほどのものではないだろうか。
そんな、生と死の間にある時間を、ムコリッタという仏教の時間の単位に当てはめてみた。

川っぺりのアパートは、大切な人の死に直面した人たちが生きている。
いつ死んでもかまわないと思っていた主人公は、落ちこぼれだけど人間らしいアパートの住民たちに囲まれ、
少しずつ「ささやかなシアワセ」に気づいてゆく。
友達でも、家族でもない彼らの中で、孤独ではない、と実感する。

荻上直子

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―『川っぺりムコリッタ』は、ご自身が書いた小説が原作ですね。

実は、最初から映画にするつもりで脚本を先に書いていました。けれど、製作がなかなか進まなかったので、その間に小説を書いたんです。なので通常の小説の映画化とは違うかもしれません。

―刑務所から出てきたばかりの孤独な青年・山田とアパートの住人などとの交流を通して
社会との接点を見出していく物語ですが、そもそも脚本を書く起点はなんだったのでしょうか?

NHKの「クローズアップ現代」の“ゼロ葬”についての特集(※「あなたの遺骨はどこへ~広がる“ゼロ葬”の衝撃~」2016年放映)を見て、どこにも行き場のない遺骨がかなりあるということを知り、興味を持ちました。そこで見たことがずっと頭に残っていました。かっちりプロットを決めて書くタイプではなく、最初と最後だけぼんやりとしたイメージがあって、そこから書いていくのですが、“骨”については表現したいという気持ちは最初からありました。

―亡くなった方の送り方や“葬儀”は、この映画の大きなモチーフのひとつですね。
リサーチはかなりされたのでしょうか。

「クローズアップ現代」でも遺骨の話しが出てきました。例えば、誰かが亡くなって役所の人が、疎遠になっているその方の妻に連絡すると「いらないからその辺に捨てちゃって」とかいったりする。役所にいくと、引き取り手のない遺骨の箱が並んでいて、そういう人のための葬儀屋もあります。これらは衝撃的でした。山田は、生きることに対して貪欲ではなく、いつ死んでもいいと思っている人ですが、私自身も、この主人公に似ている部分があります。30歳になったときに、少なくとも60歳まで生きるとしても、まだまだこの後30年も生きなければならないのか、と山田と同じように思いましたし、自分が死んだあとは、その辺に骨を撒いて捨ててくれてもいい、と思っています。

―「ムコリッタ」は、仏教における時間の単位のほっとつで1/30日を表すそうですが、
この言葉をタイトルに引用した理由はなんですか?

タイトルに迷っていたときに、国語の教師をしている高校時代からの友人に脚本を読んでもらい、彼女が考えてくれました。それまでは、私自身も「ムコリッタ」という言葉も聞いたことがなかった。その時間的な解釈がこの映画にぴったりだと思って、そのまま採用しました。

―舞台となるアパート「ムコリッタ」は、川の近くにあります。
山田もセリフで「川の側に住みたい。なぜならを日常に感じ、生命のギリギリを感じていたいから」といいます。
荻上監督にとって川は、何を表しているのでしょう?

私は多摩川の近くに住んでいるんですが、台風が来ただけで、ホームレスの方が流されたり命を落してしまうこともある。川辺で危ない目に遭うということが、かなり身近にあります。数年前に多摩川が氾濫したときも、ウチにも避難勧告が来ました。でも不思議なことに次に引っ越しをするとしてもやはり川辺に住みたいと思うんですよね。実は、この小説を出版した際に写真を提供してくださった写真家の川内倫子さんも、ずっと川辺に住んでいるとおっしゃっていた。なにか特別なものを象徴しようとしたわけではないんですが、どうしても水の流れに人は惹かれてしまう何かがあるのではないかと思うんです。

―主演の松山ケンイチさんを始め、ムロツヨシさん、満島ひかりさんなど実力派の俳優が顔を揃えていますが、
キャスティングはどのようにされたのですか?

私は特定のキャストを想定しての当て書きはしないので、キャスティングはいつも制作が決まったあたりからプロデューサーと相談しながら進めていきます。ですが、松山さんに関しては、脚本を書き終えたすぐ後に行った2017年のイタリアのウディネ・ファーイースト映画祭で、初日にご飯を食べに行ったら目の前にいらしたんです。これは運命だなと思って、主演は絶対に松山さんにお願いしたいと熱望しました。満島さんには、純真な部分を心の芯に残したまま大人になったような人だという印象を持っていました。
その印象は間違っていなかったと現場で思いました。人のココロ読むし、怖い。その純真な部分が映画に表れていると思います。島田のキャラクターは、一番、キャスティングが難しかったのですが、ムロツヨシさんはぴったりだったと思います。人の部屋にズケズケと上がりこんでくるように厚かましさもあり、本当は繊細な人かもしれないという得体の知れない部分もある。テレビでよく見るムロさんのキャラクターとは違い、こちらの要求に真摯に応えようと努力を惜しまず、とても真面目な方でした。吉岡さんは、この映画の大黒柱のような存在でした。どっしりと構えて受け止めてくれているような、そんな安心感を与えてくれ、私は現場でずいぶん吉岡さんに頼っていたように思います。

―撮影はすべて富山でロケされたそうですが、ロケ地はどのように選んだのですか?

山田が塩辛工場で働くという設定だったので、塩辛の名産地を調べたら、富山ではイカスミを使った黒い塩辛が作られていると知って、ちょっとおもしろいかなと思って富山に決めました。コロナ禍での撮影でしたが、温かく撮影隊を迎えてくださり、とても撮影がしやすかったです。

川っぺりムコリッタ

2022年全国ロードショー

友達でも家族でもない でも、孤独ではない

ハイツムコリッタ。いろんな人がこの部屋に住みました。

松山ケンイチ / ムロツヨシ  満島ひかり / 江口のりこ  黒田大輔  知久寿焼  北村光授  松島羽那 / 柄本 佑 田中美佐子/薬師丸ひろ子 / 笹野高史 / 緒形直人 / 吉岡秀隆 / 監督・脚本  荻上直子「かもめ食堂」

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    introduction

    「ご飯ってね、ひとりで食べるより
    誰かと食べたほうが美味しいのよ」
    友達でも家族でもない、でも孤独ではない、
    新しい「つながり」の物語。

    『かもめ食堂』の荻上直子が贈る、
    「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」。

    生と死の間にある時間を、ムコリッタという
    仏教の時間の単位に当てはめてみた。

    荻上直子

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    story

    誰とも関わらず生きようと決め、
    ボロアパート「ハイツムコリッタ」で
    暮らし始めた孤独な山田。

    『底抜けに明るい住人たちと出会い、
    ささやかなシアワセに気づいていく。

    山田は、北陸の名もなき町にある「イカの塩辛」工場で働き始め、社長から紹介された「ハイツムコリッタ」という安アパートで暮らし始めた。できるだけ人と関わらず生きていこうと決めていた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。山田は、念願の米を買い、ホカホカ炊き立てご飯を茶碗によそい、イカの塩辛をご飯に乗せた瞬間、部屋のドアがノックされる。ドアを開けると、そこには隣の部屋の住人・島田が風呂を貸してほしいと立っている。ぼさぼさ頭で汗だくの男は、庭で野菜を育てているという。

    以来、毎日のように山田の家にやってくるようになったことから、山田の静かな日々は一変する。このアパートの住人はみな、社会からは少しはみ出した感じの人たちばかりだった。無論、みな貧乏だ。旦那さんを無くした大家さんはなんだか訳アリの雰囲気だし、墓石売りの溝口さんは息子を連れて訪問販売しているし、ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、なぜだか住人たちと関わりを持ってしまっている。

    ある日、子供のころに自分を捨てた父の孤独死の知らせが入る。なぜ、とうに縁が切れた父親の死後の面倒をみなければならないのか?反発しながらも、島田に説得され、山田は遺骨を引き取りに行く。父が残した携帯電話には「いのちの電話」への着信履歴が残っていた。自分を捨てたと思っていた父の死因は自殺だったのだろうか?母に捨てられて以来、「自分なんか生まれてこなければよかった」という思いと戦ってきた山田は、腹立たしいような、「やっぱりそうだったのか」と落胆するような複雑な感情にかられる。そんな山田を、島田は不器用に、かつ優しく励ます。少しずつ友情のような関係が芽生え始める山田と島田。溝口の墓石が破格の値段で売れたときは、ハイツムコリッタの皆で食卓を囲む。山田の心に光が灯り始めた頃、山田が北陸の町にやってきた「秘密」が、島田に知られてしまい―。

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     監督・脚本 : 荻上直子

    1972年、千葉県生まれ。1994年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画製作を学び、2000年の帰国後に制作した自主映画「星ノくん・夢ノくん」がぴあフィルムフェスティバルで音楽賞受賞。2004年に劇場デビュー作「バーバー吉野」でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞受賞。2006年「かもめ食堂」が単館規模の公開ながら大ヒットし、拡大公開。北欧ブームの火付け役となった。以後ヒットを飛ばし、2017年に「彼らが本気で編むときは、」で日本初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞他、受賞多数。また、ドラマでは、2021年4月より放送されている中村倫也主演のドラマ「珈琲いかがでしょう」(テレビ東京)がある。

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